特集 畜産分野での女性の活躍推進
「女性が働きやすい畜舎環境」
㈱梓設計九州支所・一級建築士
前間 千秋
2015年度の年次経済財政報告書(経済白書)が2015年8月14日の閣議に、内閣府特命大臣(経済財政政策担当)より提出された。白書は日本経済の今後について「人手不足が経済成長の制約になる」と指摘し、働き手を増やすために女性がフルタイムで働ける整備を求めた。このことは畜産分野だけが特殊な問題ではなく、日本の全産業で取り組みを対応すべき課題だといえる。
このような社会環境の中、2015年8月28日に女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)が成立した。
今後ますます女性と働き手についての重要度が期待され、女性が働きやすい環境整備の施策の実施が求められる時代となり、当然のことながら畜産分野でも対応が求められる。そこで本稿では、女性が働きやすい畜舎環境や周辺設備(トイレや休憩室)について述べてみたい。
日本の女性の平均寿命は1947年に53.96歳だったのが、2014年は86.83歳と平均32.87歳も伸び、過去最高を更新している。今後、医療・福祉の発達、食生活の向上・改善により、ますます高齢化が進むと考えられ、今世紀半ばには日本の人口の約10人に4人が65歳以上の超少子高齢化社会になるといわれている。
一方、50歳時の未婚率を示す生涯未婚率(女性)は1950年に1.4%だったのが2010年は10.6%となり、約10倍となった。超少子高齢化社会を目前に控え、未婚女性も今後ますます中心的な働き手として期待される。
しかしながら畜産分野において対象物は家畜であり、飼育の宿命ともいえる早朝から夜遅くまでの作業が実態となっている。このような作業環境の中、今後の人口構成から少子化の流れにより、担い手および後継者不足の問題が予想され、定時出退社の他産業と異なり畜産分野での人材確保と職場環境の整備はますます重要な課題だと思われる。
畜産現場で女性が従事することが多い作業の1つが酪農経営における搾乳作業である。搾乳施設はパーラーを使っているところが多いが、パーラーを設計する際には、依頼者である建築主と相談して詳細な検討を行う。
しかし、パーラーのピットに関する建築関連の書物が一般建築物および住宅雑誌等に比べて少ないという実情もあり、農業・畜産施設を主に設計している以外の設計者は、専門外でもあり他の類似施設を参考にパーラーピットの寸法を決める傾向にある。(図1)
設計打ち合わせ時の建築主(主に男性)の人体寸法にて決定しがちだが、毎日2~3回搾乳を誰が作業するかにより最適な寸法を導き出す必要がある。このパーラーピットの部分は、搾乳機器または住宅のシステムキッチンのように工業製品化されたものではなく、コンクリートまたはコンクリートブロックなど現場で築造するオーダーメイドの部分である。
この搾乳作業は主に女性が担当しているのであれば、その人体寸法を勘案して方針を決めるのが望ましいと思われる。 搾乳作業でピットの深さに違和感を覚え改修する場合には、現況のピット床に増し打ちコンクリートを打設する方法もあるが、1日2~3回の搾乳作業後からコンクリート打設後硬化する時間との検討が必要である。一般の建設では、打設して28日後が設計強度が得られる日数である。増し打ちコンクリートの厚さが薄いと将来クラック(ひび割れ)が発生し、雑菌の発生温床になりかねないことにもなる。
多少手間は要するが、現況床面にスノコを付設し搾乳作業者の人体寸法にあわせた高さでオーダーメイド的に作ることができる。しかし搾乳作業後にスノコおよびスノコ下の床面洗浄により、スノコを動かす作業が発生する。 パーラーピット入口の階段は一般建築同様に防滑使用とすることで、労働災害防止対策となり安全性を保つことができる。
女性が働きやすい環境整備を構築する上で、「育児と仕事」を両立させることは不可欠であるが、保育所、託児所の不足など、待機児童の問題が女性の社会進出を阻害する要因の一つとなっている。
男女平等の社会といいつつも、現在の男性優位の社会構造化では育児と仕事の両立は大変困難な状況下にある。 男性社会の仕事観、職場観では、職場に子どもを連れてきたタレントが批判されて一大論争を巻き起こし問題提起のきっかけとなった。しかし時代の流れとともに、1991年育児休業法が成立して以来、育児休業制度が育児支援策として定着しつつある。
これに呼応して、事業所内の保育所等が2014年には約4500ヵ所となったが、内訳をみると、医療およびサービス業の事業所内保育所が大半であり、全産業均一化にはまだ程遠いのが実情だ。
農業・畜産分野においても、農場、作業所・畜舎等に付帯した保育所、託児所の設置については、関連法令の制約もあるが克服するた農村社会には各地域にJAがあるが、例えばJAの遊休施設を活用することも選択肢の一つだと思われる。(図2)
畜産従事者が快適で安全に働ける施設の一つにトイレがある。このトイレスペースは住宅、事務所、ホテルなど人間が生活するうえで不可欠なスペースである。
政府の有識者会議でも、女性の活躍推進のためには生活レベルの質の向上が必要だとし、暮らしやすい空間作りの象徴としてトイレに焦点が当てられ、快適なトイレを増やすことなどを盛り込んだ提言がなされた。
また、国土交通省では、女性が輝く社会作りにつながるトイレ等の環境整備、利用のあり方に関する協議会も開催され、トイレに関する意識改革が急速に進んでいる。
全国の建設業団体などでつくる一般社団法人日本建設業連合会(日建連)では、建設業で活躍する女性技術者・技能者を「けんせつ小町」と名付け、彼女たちが働きやすい「現場環境整備マニュアル」が策定され、建設業に携わる女性を増やす取り組みを本格化させている。
畜産現場では圃場や草地等、屋外での作業環境下ではトイレはほぼ皆無であり、牛舎内でもトイレを設置していないところが多い。設置していても便器の数が不足していたり、不衛生であったり、また、ほとんどが男女共同で、快適性の面から程遠い劣悪な環境といわざるを得ないのが現状だと思われる。クリーンで安全なトイレ空間の構築により、女性が働きやすい環境を整備し、優秀な人材を長期確保できるような取り組みが畜産分野でも求められている。
女性に配慮したトイレの条件以下に、女性に配慮したトイレの条件の具体例を示す。設置用件 女性専用であることを明確に表示する男性が無断で使用できないよう、施錠管理する詰所、休憩所、喫煙所等から凝視することができない位置とする快適な設備 作業用ヘルメット、帽子、作業衣掛けポーチ等小物置き台便座用アルコール消毒用具暖房便座および温水洗浄便座トイレには衛生上手洗い器があるが、化粧直しができるパウダースペースの設置が望まれる。女性の場合、休憩時間、食事後、退社時間後の身だしなみとして化粧直し(ファンデーション)の行為がある。そのため、化粧時に指に付着した化粧品を落とすための小さな手洗い器、化粧ポーチを置く台と鏡が必要となる。建築用語で基礎のことをファンデーション(Foundation)と呼ぶが、人も建物も基礎が重要なことを示している。また、トイレ施設の入り口には、畜舎作業独特のふん、土等が靴底に付着しやすいことにも配慮が必要である。
以下に、女性に配慮したトイレの条件の具体例を示す。
① 設置用件
・女性専用であることを明確に表示する
・男性が無断で使用できないよう、施錠管理する
・詰所、休憩所、喫煙所等から凝視することができない位置とする
② 快適な設備
・作業用ヘルメット、帽子、作業衣掛け
・ポーチ等小物置き台・便座用アルコール消毒用具
・暖房便座および温水洗浄便座
トイレには衛生上手洗い器があるが、化粧直しができるパウダースペースの設置が望まれる。(図3)
女性の場合、休憩時間、食事後、退社時間後の身だしなみとして化粧直し(ファンデーション)の行為がある。そのため、化粧時に指に付着した化粧品を落とすための小さな手洗い器、化粧ポーチを置く台と鏡が必要となる。建築用語で基礎のことをファンデーション(Foundation)と呼ぶが、人も建物も基礎が重要なことを示している。(図4)
また、トイレ施設の入り口には、畜舎作業独特のふん、土等が靴底に付着し、トイレブースにそのまま入室すると付着物で汚染され不衛生となる。長靴を脱いで履き替えることも可能であるが、現実には急いでいることもあるし面倒である。この対策として、施設の入口に靴洗い場とブラシを設置することで、トイレブース内が清潔に保持できる。(図5)
①建築基準法(法)および建築基準法施行令(令) にトイレに関する規定があるので紹介したい。
令第31条(便所)
令第28条(便所の採光および換気)
令第29条(くみ取り便所の構造)
令第30条(特殊建築物及び特定区域の便所の構造)
令第31条(改良便槽)
令第32条(法31条の規定に基づく汚物処理性能に関する技術的基準)
令第33条(漏水検査)
令第34条(便所と井戸との距離)
令第35条(合併処理浄化槽の構造)
また、労働安全衛生規則第628条(便所)に男性用と女性用に区別すること。便器の数、便房の数、手洗い設備、汚物の処理等についての規定がある。
排せつは人間の尊厳に最もかかわりがあり、食物を口にする以上、老若男女、貧富の差、就業有無に関係なく排せつ行為がある。それぞれ人体内の臓器から構成され、尿を一時的にためる袋状の臓器のことを膀脱といい平滑筋などでできた袋である。成人では左右の腎臓から1000~1500ml/日の尿の量が生産される。膀脱の最大容量は700~800mlだが、初発尿意量は約100ml、通常は150~300mlになると尿意を覚える。正常での日中での尿意回数は3~7回である。女性の膀脱は体の仕組みにより膀脱内容量が男性よりも少なくなっている。
トイレを我慢したり、長時間冷えたりすると膀脱炎になりやすいといわれている。この疾病にかかると、通院治療のために職場のローテーションに少なからずとも影響を及ぼしかねない可能性がある。
排尿時の服装動作では、男性より女性のほうが2倍程度の動作を要する。その結果、女性が男性に比べて時間を要することとなる(図6)。
排尿フローでは、男性より女性の方が約3倍程度のフローを要するためにトイレブース内滞在時間を要する結果となっている(図7)
日本トイレ協会の調べによると、女性のトイレ滞在時間は男性の3倍を超えるといわれている。男性の平均排尿時間は1回当たり31.7秒、日中の平均排尿回数は5.5回に対し、女性の平均排尿時間は1回当たり1分37秒、日中の平均排尿回数は7.2回とある。
排尿時間は男性に比べ約3倍であり、生理的に時間を要する結果となっている。トイレ利用者の人数に対して便器の数が不足すると、事業所・作業所において定められた休憩時間がトイレ待ち時間による排尿に使われ、トイレ休憩のみになる可能性もある。
フィールドでの作業および冷え切った環境下では特に女性は膀脱炎になりやすいともいわれており、防寒対策などを各人する必要がある。そのほかに尿道は男性16~18cmの長さがあるのに比べ、女性は3~4cmとかなり短く、これが尿路感染症を起こしやすい原因であるといわれている。
疾病対策と予防対策を行うことにより、健康的で良好な職場ローテーションに寄与できるものと思われる。
(まえまちあき・陳梓設計九州支社・ー級建築士)